eKYCとは?従来の本人確認との違いは?仕組みや導入するメリットについて徹底解説

eKYCとは、Fintech時代の新たな本人確認の方法です。

従来の金融サービスにおける口座開設の際の本人確認は、書類提出など煩わしいステップを踏まなければなりませんでした。

しかし、eKYCを導入し、本人確認のプロセスをオンラインで完結させることで、投資家やアプリのユーザーだけではなく、サービス事業者にもメリットがもたらされます。

この記事では、eKYCの定義や登場してきた背景、仕組み、導入するメリットについて解説していきます。

eKYCとは

eKYCとは、オンラインでの金融・商取引における、本人確認のための書類提出や手続きの呼称です。

eはelectoronic、この場合はインターネットを指し、KYCとは「Know Your Customer」つまり、事業者の顧客確認を指す言葉です。

KYCは、2007年に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」で義務付けられた仕組みで、これをオンライン上で完結させるのがeKYCです。

従来の本人確認では、はがきなど書面でのやり取りが必要となっていましたが、eKYCでは、スマートフォンなどのデバイスで顔写真・身分証明書などを撮影することによって瞬時に本人確認を完結できます。

その利便性の高さから、主にクラウドファンディングなどのオンラインの金融サービスで普及しています。

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導入事例

犯罪収益移転防止法について

「犯罪収益移転防止法律」、通称「犯収法」はテロリストや犯罪組織などへの資金供給を防止し、マネーロンダリングを撲滅するため、口座開設の際に厳格な本人確認を行うことを義務付けた法律です。

eKYCは、犯罪収益移転防止法への対応として導入されます。

犯罪収益移転防止法は、金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者、弁護士・弁護士法人、司法書士・司法書士法人、行政書士・行政書士法人、公認会計士・監査法人、税理士・税理士法人など、契約や取引にあたって本人確認を必要とする事業者が対象となります。(特定事業者)

犯収法に基づき、特定事業者には以下の義務が課せられています。

法第4条 取引時確認
・法第6条 確認記録の作成・保存(7年間)
・法第7条 取引記録の作成・保存(7年間)
・法第8条 疑わしい取引の届出 司法書士等の士業を除く
・法第11条 取引時確認等を的確に行うための措置
・法第9条 コルレス契約締結時の厳格な確認
・法第10条 外国為替取引に係る通知

取引時の確認はもちろん、その際の記録も作成し保存しておくことが求められています。

しかし、特定事業者の行うすべての業務が犯罪収益移転防止法の対象となるわけではなく、対象となるのはあくまでも特定業務のみです。

例えば、クラウドファンディング事業者であれば、組合契約に基づき出資を募り、事業の運用・償還金の分配を行うという業務のみが犯罪収益移転防止法の対象となり、他の業務は対象となりません。

eKYCが必要とされている理由

eKYCは、顧客の口座開設における申請~本人確認の完了の一連のプロセスを簡素化することと、犯罪の防止を目的に登場しました。

銀行や株取引の口座開設の際、本人確認は法律で義務付けられています。
従来、口座開設の申請はオンラインで完結できたとしても、本人確認書類の提出や手続きは郵送で行わなければなりませんでした。

この結果、本人確認が完了し、顧客が実際に取引を開始するまでに何日もかかってしまい、顧客の離脱を引き起こしていました。

しかし、郵便を用いた本人確認手続が事業者・利用者双方の負担となっている現状を踏まえ、オンラインで完結するスムーズな本人確認の必要性が生じ、本人の顔の画像等を活用したオンラインで完結する本人確認手法の普及を目的に、犯罪収益移転防止法がオンラインでの取引に適応する形で2018年11月30日に一部改正されました。

引用:金融庁「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加」

eKYCは上記のイラストの1にあたります。

令和2年にも、犯収法には一部改正が施されました。

この改正では主に、eKYCを利用しない場合における本人確認方法が厳格化され、第6条第1項第1号ルに基づき、郵便業者などに提示する本人確認書類については写真付きのものに限定されました。

引用:警察庁「平成30年改正犯罪収益移転防止法施行規則(平成30年11月30日公布)に関する資料」

・非対面取引における本人確認書類の提出条件の厳格化

引用:金融庁「顧客から本人確認書類の送付を受け顧客宛に書留郵便物等により転送不要郵便等として送付する確認方法に関する改正」

法改正により、上述の「住居宛に書留郵便等により転送郵便物等として送付」に加えて以下のいずれかを満たすことが条件となりました。

・本人確認書類の原本 (ex. 住民票の写し、印鑑登録証明書)の送信
・ICチップ付本人確認書類から読み取ったICチップ情報の送信
・本人確認書類の画像情報 本人確認書類の写し2種類の送付を受ける
・本人確認書類の写し+補完書類(同居者のものも可 )の原本又は写しの送付を受ける

ルールの厳格化により書類を介した本人確認の条件は一段と煩わしくなったことに加え、コロナ禍による非対面サービスの需要の高まりにより、eKYCの社会的需要はさらに増すことが予想されます。

上記の5つの内どれを取り入れるかは業務オペレーションとの兼ね合いも考慮に入れる必要がありますが、郵送とオンラインではどちらが顧客にとってラクかは論ずるに及びません。

クラウドファンディングでのeKYC

クラウドファンディングのシステムには、eKYCとの連携機能が標準搭載されていることが多く、eKYCと連動させると、顧客は本人確認をオンラインですべて完結させることができます。

引用:「グローシップ・パートナーズ、投資型クラウドファンディングパッケージ「CrowdShip Funding」と、TRUSTDOCKのデジタル身分証アプリ連携によるeKYC機能の連携で基本合意

 

グローシップ・パートナーズでは、子会社のクラウドシップ株式会社を通じて、クラウドファンディング事業者のeKYCに紐づく本人確認業務を代行するサービスを提供しています。

グローシップ・パートナーズ、「ネクスウェイ本人確認サービス」と投資型クラウドファンディングパッケージ「CrowdShip Funding」を連携

本人確認の仕組みとしては非常にシンプルで、手持ちのスマートフォンで顔写真付き身分証明書やICチップなどと自らの容貌を撮影し、事業者の指定するソフトウェアに送信すると、自動的に本人確認が行われて、投資スキームを用いたサービスであれば口座開設まですぐに完結します。

eKYCのシステムは、生体認証を通して瞬時に本人確認を済ませることができるだけではなく、なりすましや偽造が難しく、より強固なセキュリティを実現します。

不動産クラウドファンディングで言えば、2021年現在以下のサービスでeKYCが導入されています。

FANTAS funding
COZUCHI(WARASHIBE)
TREC FUNDING
TECROWD
・利回りくん
property+
・わかちあいファンド
・みんなで資産運用
・みんなの年金
・えんfunding
B-Den
victory fund
FUNDROP

クラウドファンディングでは、外部システムと連携できる拡張性を持ったシステムを導入することで、安全性と利便性を兼ね備えたサービスを構築することができます。

eKYCを導入するメリット

顧客の離脱を防ぐことができる

オンライン上で本人確認がスムーズに行われれば、サービスの利用を検討しているユーザーの温度感を保ち、離脱を防ぐことができます。

書類での本人確認は記入や押印、発送など非常に手間と時間がかかり、口座開設意欲のない顧客が離脱してしまうということがありました。

しかし、eKYCを導入すれば、いつでもどこでも口座開設の申請から本人確認まで顧客自らがスムーズに完結できるようになります。

顧客にとってもeKYCを導入している企業としていない企業では、口座開設の際の利便性が桁違いであるため、導入している企業の方が顧客からは選ばれやすくなります。

郵送コストの削減

eKYCを導入することで郵送に関わるコストを削減でき、オンライン上で顧客管理ができます。

犯収法において本人確認の手段が一部厳格化された現状を踏まえると、eKYCを用いた本人確認プロセスでは顧客の温度感はより冷めにくくなります。

開発コスト・実装のコストの削減

eKYCを自社のサービスと連携させれば、それのみで個人情報関連のセキュリティ対策が完了するため、サービスの開発コストや実装コストの削減につながります。

コストが下がれば、短期間でサービスを納入することが可能となります。

個人情報取扱事業者の資格を得なくてよい

法人がサービスの本人確認にeKYCを導入する場合、個人情報取扱事業者の資格を取得する必要がなくなります。

個人情報保護法第2条第5項によると個人情報取扱事業者は、 「個人情報データベースなどを事業の用に供している者」と定義されています。

個人情報取扱事業者の資格が必要ないのは、上述の通りeKYCが生体認証のシステムの中でのみ個人を承認する手段であり、取得された情報をプラットフォーマーもサービス事業者も保存することができないからです。

個人情報が保持されないからこそ、顧客の個人情報のセキュリティが保証されます。

eKYCの代表的なサービス

TRUSTDOCK

TRUSTDOCKは、スマホアプリを通じて本人確認ができるeKYCサービスです。

犯罪収益移転防止法をはじめ、携帯電話不正利用防止法、古物営業法、労働者派遣法、出会い系サイト規制法、民泊新法など、あらゆる法律に準拠しています。

独立した様々なAPI群を用意しているため、新規アカウント開設時だけでなく、不正検知時の取引時確認、定期的な顧客確認、休眠口座からのアクティベートなど、事業者様の業務フローに合わせて、必要なタイミングで必要なAPIを実行できます。

「運転免許証/運転経歴証明書/パスポート/マイナンバーカード/住基カード/在留カード/特別永住者証明書」など、幅広い本人確認書類に対応しています。

LIQUID eKYC

LIQUID eKYCは、株式会社Liquidが展開するeKYCシステムです。

AIによる画像認識精度(顔認証精度)の向上させ、本人確認事務処理を効率化しています。
また、Webブラウザ版とアプリ版を選択可能です。

proost

proostは、セブン銀行と電通国際情報サービスの合弁会社である株式会社ACSiONが展開するeKYCサービスです。

proostの申込データは、暴追センターリストへの自動照合が実施されるので、自社で反社チェックを行う必要がありません。

まとめ

この記事では、eKYCの定義や登場してきた背景、仕組み、導入するメリットについて解説してきました。

eKYCはインターネットのサービスが普及してきた今だからこそ必要とされるオンラインでの本人確認を、スムーズかつ安全に行うことのできるシステムです。

クラウドファンディングなど、顧客にオンラインでの本人確認を要求するサービスを運営している企業であれば、顧客の利便性向上のために必要な仕組みです。

顧客の離脱防止や安全な本人確認の仕組みとして導入してみてはいかがでしょうか。

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