インターネット上で、不動産投資を1万円からと少額で取り組める「不動産クラウドファンディング」が投資家から注目を集めています。
国土交通省が発表した不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブックの統計でも投資家による出資額総額が2018年は12.7億円だったのに対し、2022年度では604.3億円と約47倍にも伸びており、いまだに市場規模は拡大していると言われています。
また不動産クラウドファンディングのサービスを提供する事業者も2018年頃は10社にも満たなかったですが、2024年では計100社以上と非常に多くの事業者がサービスを展開しており、企業からの注目度も高くなっています。
本記事ではこれだけの注目と期待感を集める「不動産クラウドファンディング」がどのような仕組みで、投資家や事業者にとってどのようなメリットや利益につながるのかを解説してまいります。
不動産クラウドファンディングとは
不動産クラウドファンディングでは、まず事業者がインターネットを介して不特定多数の人々から出資金を集め、それを元手に不動産(対象物件)を取得します。そして取得した対象物件は、一定期間のあいだ賃貸物件として第三者へ貸し出すことで賃料収入を得たり、対象物件を購入時より高値で販売を行うことで差額(売却益)を得るために運用します。
そして、その賃料収入や売却益の一部を出資者に金銭的リターンとして分配し、運用期間後には出資金を返還するまでが不動産クラウドファンディングの一連の流れとなります。
不動産クラウドファンディングのメリット
不動産クラウドファンディングは投資家にとって主に①少額で投資が可能、②運用・管理が不要なこと、③投資対象の詳細が確認可能の3点がメリットとして挙げられます。
①少額で投資が可能
従来の不動産投資といえば、数千万~数億円の不動産をひとり(少数人)で出資する必要があるため、銀行からの出資やローンを組んで、取り組むのが一般的でした。
しかし、不動産クラウドファンディングでは、不動産特定共同事業法(不特法)という法律に則り、事業者は不動産を小口商品化して販売することが可能となります。
数千万円の不動産であっても、小口商品化することで、一人当たりの出資額は最低1万円~とし、数十名~数百名が共同出資することで、不動産を取得することができます。
このように少額から投資できることから、投資の際に借入やローンを組む必要もなく、分散投資によるリスク分散も図りやすいことが、多くの投資家から人気を集める理由となっています。
②運用・管理が不要
不動産投資では物件の管理や運用に手間や費用がかかるのが一般的でしたが、不動産クラウドファンディングでは基本的には不動産のプロがこれらを担うため、出資者に手間が発生することはありません。
最初に投資するサービスや物件を選び、申込・出資さえしてしまえば、あとはリターンを待つだけなのも不動産クラウドファンディングが人気となる理由です。
③投資対象の詳細が確認可能
不動産クラウドファンディングが投資家から評価されるポイントとして、投資案件への透明性の高さが挙げられます。
不動産クラウドファンディングでは、投資案件の概要、想定利回り、運用スケジュールだけでなく、投資対象の立地、外観・内観、周辺環境などの物件情報や修繕・リノベーションや土地活用などの運用方針まで細かな情報が公開されます。
そのため投資家は多様で多角的な情報から投資すべきか判断することができ、自身の考え方や好みにマッチングする案件へ自由に投資することができます。
不動産クラウドファンディングと不動産担保型ソーシャルレンディングとの違い
同じ投資型クラウドファンディングに分類される、不動産担保型のソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)との違いはどこにあるのでしょうか。
主に違いは2つあり、1つは適用される法律です。不動産担保型の ソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)のファンドは金融商品として扱われます。
すなわち、不動産担保型のソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)の枠組みは「金融商品取引法」において定められており、不動産担保型のソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)を運営する場合には、金融商品取引法に基づく事業運営のための免許が必要となります。
一方、不動産クラウドファンディングの枠組みを定めている法律は「不動産特定共同事業法」(通称:不特法)です。
「不動産特定共同事業法」とは、事業者が不動産を小口商品化し、匿名組合に基づいて資金を集め不動産を運用し、投資家にその投資額に応じた利益を分配する「不動産特定共同事業」の健全化や透明化について定めた法律です。
平成29年の法改正により、会員登録から投資まですべてがwebで完結する電子取引業務についても運営が可能となりました。
対面での契約手続きを必要とする不動産小口化商品を不動産クラウドファンディングと呼称するケースもありますが、当記事及び当メディアでは一貫して、不動産特定共同事業法に基づいて運営され、web上で会員登録からリターンの償還まですべてが完結するクラウドファンディングを、不動産クラウドファンディングと定義します。
もう1つの違いはリターンの性質です。
不動産担保型のソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)の場合、投資家に還元されるリターンとは、元本と利回りを併せたものです。運用が終わると同時に口座に自動的に振り込まれます。
一方不動産クラウドファンディングの場合、投資家に還元されるのは通常の不動産投資さながら家賃収入や売却費などを原資とした投資金と利回りを合わせた額です。
不動産クラウドファンディングは、不特定多数の人々から募った資金で、物件が一定期間運用されます。
不動産クラウドファンディングと融資型クラウドファンディングの違い
モデル | 運営に必要な免許・免許 | リターン |
---|---|---|
不動産クラウドファンディング | 不動産特定共同事業法 第1号第2号 | 物件の賃料収入および売却益を |
融資型クラウドファンディング (ソーシャルレンディング) | 第二種金融商品取引業・貸金業 | 貸付先企業の事業収益を |
また、不動産担保型のソーシャルレンディングでは、不特法に基づくクラウドファンディングと比べて住所などの詳細情報が秘匿となっており、透明性に欠ける場合がありますが、不動産クラウドファンディングでは、投資家は物件の詳細情報を閲覧可能です。
不動産クラウドファンディングの他に不動産投資を少額で行うことのできるものは、J-REIT(不動産投資商品)が挙げられます。
多くの投資家から集めた資金で不動産を購入・運用し、収益を投資家に分配するという点では不動産クラウドファンディングと同じですが、J-REITの場合、投資先を自分で選定することはできず、投資の専門家にゆだねる形を採ります。
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不動産クラウドファンディングをはじめる事業者が増えているのはなぜか
不動産クラウドファンディングは前述したメリットなどから投資経験が浅い人から株式投資や投資信託など別の投資で経験豊富な方まで様々な投資家から人気を集めています。
では事業者にとってのメリットやクラウドファンディングを行う価値はどのようなことがあるのかという点に関しても言及していきたいと思います。
迅速に資金調達が可能
不動産事業者は価値のある物件や土地を見つけた場合、それらを取得するための主な資金調達は、金融機関からの借り入れとなります。
金融機関からの融資は低金利で受けられるため、こちらからの融資で資金調達するのが一般的となります。
しかし、金融機関からの借り入れには審査に時間がかかり、審査に通ったとしても資金調達できるまで更に時間を要することもあります。
そのため、例えば優良な不動産を見つけた際に資金力のある他社より先に買付したい場合や販売元から早期割引など提案されている場合には間に合わない可能性もあります。
そこで活用されるのが不動産クラウドファンディングです。不動産クラウドファンディングであれば、投資家に対し対象の物件情報を公開し、出資を募ることで迅速に資金調達することが可能です。
事業者にとって収益見込みの高い掘り出し物件を見つけたが、すぐに資金を調達する必要となった場合には、不動産クラウドファンディングは最適な手段となってくるのです。
地方物件・老朽化物件の取得が可能
金融機関から融資の審査が下りなかった物件であっても、リノベーションや土地開発など付加価値を高めて、高い収益を獲得できることがあります。
不動産クラウドファンディングであれば、そのような物件であっても、コンセプトや事業計画、運用方針を明確に示すことで、共感してくれる投資家やリスキーでも高い利回りを期待する投資家たちから出資を受けることが可能です。
こういった取り組みは事業者にとって利益を生み出すだけでなく、地方再生や空き家問題といった社会課題に対しても貢献できることから、企業価値を高めてくれるでしょう。
新規顧客の獲得・育成
これまで不動産投資というと多額の初期費用やローンを組むリスクなどから参入障壁が非常に高く、投資家は富裕層がメインとなっていました。
しかし、不動産クラウドファンディングは少額かつスマホなどから手軽に投資できることから、資金力がまだ低い若年層の投資家から貯蓄だけで投資未経験の方など幅広い層から人気を集めています。
不動産事業者としては、不動産クラウドファンディングを通じて、不動産投資への魅力を体験してもらい、より大きな投資にも興味を持ってもらい、長期的に取引できる関係性を築くことも可能です。
不動産クラウドファンディングは安全なのか
投資案件には当然リスクはつきものです。
不動産クラウドファンディングも元本毀損、事業者の倒産など様々なリスクを内在しています。
元本毀損リスク
不動産クラウドファンディングにおける代表的なリスクは「元本毀損リスク」です。
事業者が販売する不動産クラウドファンディングの不動産小口化商品は、不動産のプロが目利きした物件であり、一定以上の信頼が置ける商品であることは間違いありません。
しかしながら、不動産市場の大幅な変動や金融危機など突発的な経済動向により、不動産価値や金利が大きく下落することもあります。
その結果、不動産が想定通りに運用できなかったり、購入価格より低い価格で売却することとなると、いわゆる売却損が発生します。
このような運用で利益を上げられなかったり、売却損が発生した場合、投資家への分配金がないだけでなく、預けた資金も減額して返還(元本割れ)となり、投資結果がマイナスで終わることになります。
事業者の倒産
事業者は一定の財政基盤、1億円以上の資本金を有していますが、倒産する可能性もゼロではありません。
また過去にも例がありますが、事業者がサービス運営に問題があり、行政処分や事業停止命令を受けるケースもあります。
万が一、出資した不動産の運用中にそのような問題が発生した場合、元本の一部..あるいは全額が還ってこないも最悪の事態も考えられます。
リスクを軽減する「優先劣後スキーム」とは
いくつかのリスクのうち、元本毀損リスクに関しては、多くの不動産ファンドにて「優先劣後スキーム」が採用され、一定の損失までは事業者側がにてカバーしてくれます。
「優先劣後スキーム」では、投資家たちから出資(優先出資)だけでなく、事業者自らも出資(劣後出資)を行い、不動産を購入・所有・運用していきます。そして万が一、ファンド不動産の売却損が出た場合は事業者による劣後出資分から損失分をカバーし、投資家たちの優先出資分は守られる仕組みとなっています。(この制度は元本を保証するものではなく、劣後出資金額分まで損失をカバーするものとなっているため、万が一、それ以上の損失が発生した場合には優先出資である投資家の元本が毀損します。)
例えば、1,000万円の不動産のうち、800万円分は投資家たちから資金(優先出資)を集め、200万円分を事業者が資金を出資(劣後出資)した際、仮に不動産の売却によって100万円の損失が発生したとしても、その損失は事業者の劣後出資200万円から被るため、投資家たちからの出資金は出資時と同じ金額が返還されます。
なお、元本保証ではないため、上記の例にて損失額が200万円を超えて発生した場合は、損失額の一部が投資家たちの優先出資から差し引かれることになります。ただこの「優先劣後スキーム」のおかげもあり、これまで元本毀損した事例はございません。(2024年4月時点)
不動産クラウドファンディングで投資するコツ
分散投資を心掛ける
不動産クラウドファンディングは安定性の高い不動産が投資対象であったり、優先劣後スキームにて投資家が手厚く守られる仕組みが取られています。
しかし、やはり投資家ご自身でも投資へのリスクヘッジすることが重要です。
不動産クラウドファンディングは少額での投資が可能になっているので、ひとつのサービスに全ての余剰資金を入れるのではなく、複数のサービスごと少しずつ分散投資しましょう。そうすることで、万が一の事態が発生した際には、最低限の少額被害で済むようになります。
優先劣後の出資比率を確認する
前述した優先劣後スキームでは、事業者自身がどのぐらい出資をするか(劣後出資)は案件ごとに決められます。
そのためしっかりと案件の情報を確認し、全体の出資額に対し、劣後出資がどのくらいの比率なのかを確認することも重要です。
総出資金額にもよりますが、20%以上の劣後出資比率に設定しているファンドはかなり安心して投資しやすくなっていると思われます。
先着方式より抽選方式を狙う
不動産クラウドファンディングの案件には募集開始の日時から早い者勝ちで申込を受け付ける「先着方式」と、一定期間で申込を募り、申込の中からランダムで選ばれる「抽選方式」があります。
一部の人気サービスのファンドでは、「蒸発」と呼ばれる一瞬で完売する現象が起こるため、先着式ファンドの場合、募集開始前には待機し、開始と同時にサイトへアクセス・申込させなければなりません。
抽選方式の場合は募集開始から募集終了まで一定期間の猶予があるため、その間にもじっくりと対象物件や運用方針を精査し、自身にマッチしそうか熟考できます。
抽選であるため、募集枠を超えた応募があった場合は、外れてしまうこともありますが、特に初めて応募するサービスであれば落ち着いて選択していくことも大切です。
具体的な登録・投資方法
では、具体的な登録・投資方法を見ていきましょう。
難しいことは一切なく、どの不動産クラウドファンディングもほとんど共通しています。
各サービスの会員登録に個人情報や口座情報を入力すると、数日後に運営会社からハガキが送られてきます。
そのハガキに記載の本人確認コードを入力するとサイト上にて本人確認が終了し、投資できるようになります。
あとは投資したいファンドのページに遷移し投資口数を入力、「重要事項説明書」及び「契約成立前書面」を確認しチェックを入れ、「投資する」ボタンを押すと投資が完了します。
不動産クラウドファンディングは会員登録から投資までとてもスムーズかつ簡単です。
具体的な方法については以下の記事を参照してください。
不動産クラウドファンディングは、インターネット経由で少額から不動産に投資し、賃料収入や売却益を原資としたリターンを得ることができる新しい投資手法です。不動産クラウドファンディングは、低リスクで安定的な投資手法として人気を集めています[…]
ファンドを見極める4つのポイント
不動産クラウドファンディングには100社以上が参入していますが、サービスという観点で見るとそれぞれに際立った差異はありません。
このため、物件の立地、利回り、運用期間、運営会社の4つのポイントを参照しながら投資を検討すると良いです。
物件の立地
物件の立地は非常に重要で、駅からの距離や周辺環境の利便性などから需要の高さや入居率の高さをある程度推測することができます。
物件の住所でGoogleマップから周辺環境を散策してみたり、その地域で同じような間取りの物件の空き状況などをネットで検索してみるのもいいかもしれません。
ネットの情報収集だけでは想像が難しい場合は、ご自身が土地勘のある地域で案件組成しているサービスを探してみることで、イメージしやすい物件が見つかることもあるでしょう。
利回り
利回りはどれだけのリターンがあるかを把握するという点で非常に重要なポイントです。ただし、利回りは高ければよいというわけではありません。
高利回りの場合、物件の運用方針もリスキーである可能性があります。利回りだけを見るではなく、しっかりと物件情報やどのように運用していくのかをじっくりと見極め、投資すべきか判断するようにしましょう。
運用期間
運用期間については、どのくらいの期間で手元にお金が返ってくるかを把握するために大切です。
投資にかける余剰金額が無理のない範囲になるよう運用期間に応じた投資計画を思い描きましょう。
運営事業者
運営事業者はファンドの安全性を把握するためにも見逃せないポイントです。
少し手間かもしれませんが、サービスを提供する運営事業者が、どのような事業に取り組んでいるのか、その実績、企業の財政基盤や運営体制など調べられる情報は徹底的にリサーチしておくことで、より安心感をもって投資に臨むことができるでしょう。
はじめて不動産クラウドファンディングに取り組む方やまだ慣れない方は、分かりやすい指標として、運営事業者が上場しているかどうかで判断してもよいかもしれません。
不動産クラウドファンディングには様々な規模の事業者が参入していますが、会員登録や投資の基準の一つになるのが運営会社の信頼性です。中でも上場企業や大手企業が運営している不動産クラウドファンディングは、信頼性の高さゆえに投資家に人気があ[…]
なお、当メディアでは不動産クラウドファンディングサービスを一覧形式にて網羅しておりますので、まとめて各サービスを確認したい場合にはぜひご活用ください。
まとめ
今回は不動産クラウドファンディングについて、基本的な仕組みの説明から特徴やメリットなどをご紹介してまいりました。
投資と聞けば身構えてしまう人も多いですが、不動産クラウドファンディングであれば投資対象の情報も網羅されているうえに、少額投資でリスクを軽減できるという意味でかなり良心的なサービスと言えます。
スマホやインターネットで全てが完結しているため、不動産投資などと比べると圧倒的に取り組みやすくもなっています。
ぜひとも不動産クラウドファンディング、始めてみましょう。